...「初恋」のそれぞれ実に魅力的でした。
 先生のお作品は、版画展45回展の「今様」あたりから49、53、54、55、56、58回展と、以前の画風も好きな作風でしたし、55、56回展が殊に心に残ったように記されていますが、ここ数年のお作品は、入手しておりませんので、殊に新しい魅力で迫って参ります。
 
版画と、それ以上に日本画が好きな私ですから、美人画も、数だけは割と多く集めましたものの、鑑識眼がいくらか上がりましたこのごろあらためて眺めて見ますと、何の変哲もない単なる美人画が結構多いことに気づきます。もちろん私の資力では、深水や松園とは縁遠いことですから、この辺が似合いの所でしょうか。
 
それはさておき、清楚な中からあらわれる健康的なお色気、さびしげなあやしい妖気、美人画の魅力は幅広いものですが、この度の先生のお作品は、健康的な思春期からの色気をほうふつとさせる実にすがすがしい作品でした。
 
画廊さんの誠に適格な推薦文によって尚更作品の高尚さが伝わって来ました。
 ごらんの通りの醜男の私は、女性との縁は、まるで薄く過ぎて来ました。それだけにせめて、絵に描かれた素敵な女性と共にいたいという欲求のあらわれでしょうか、やさしく美しい女性へのあこがれは、ひと一倍強い方だと思います。
 
そんな飢えたまなこで眺めるばかりでなく、70才にもなって、生臭ささの消え失せた、落ち着いた冷静な眼で眺めましても、「初恋」のそれぞれは、におうがごとき青春の美しさ、その内なる血潮や鼓動さえ感じる生命を、あますところなく、しかもつつましく、控え目に、芳香に乗って、つたえてくれるあこがれの姿でした。
 
西洋画における立体的リアルな表現を、毛筆によって極限にまでせまった画法や、日本画の美人画の、髪や、まゆ目鼻だちの微細な描画法なれば、女性の内面までもあらわす可能性もわかりますが、線一筋によって現わされた木版画で、これほど肉体の深層精神の内なる情感まで表現出来るすばらしさに、感動を覚えます。
 
そこにたどり着くまでの先生の研鑽と努力は並大抵のものではなかったであろう事は想像も出来ますが、ある意味で、背景の設定や補助物に頼る事なく、全体的には要約され、簡素化された画面だけで、人物のパーソナリティーが、あますところなく、つたわって来るのです。
 
私はこの感動を言葉で表現出来ないもどかしさをあせっておりますが、しかし話をそらせまして、画商は評論家でない以上、修飾する称賛の言葉よりも、いい作品を見出して、それを購入する事が本業であり、魅力である事に気づきます時、...。
                         蓮蔵栄治雄

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