母のアルバム
まだ私が少年だった頃の話です。私は母のアルバムを見るのがすき
でした。母は十三人兄弟の下から二番目、九州若松の豊かな商家に
生まれました。末の妹の母の横にはいつも美しい姉たちの姿。
色褪せたセピア色の写真の中で、そこだけは陽射しを受けたように
輝く母の横顔。ハイカラな洋服。
母の愛したレコードは七十八回転の「別れの曲」。北海道の長い冬
、ストーブの暖かく燃える部屋でいつもその曲を聞いていた母。
追いつけぬ速さで回るそのレコードのように、時もまた回りまわって、
残されたものは奇妙に軽い母のアルバム。