岡本流生の版画




 哲学者で、東京大学名誉教授の中村元博士は、1989年出版の著書『日本人の思惟方法』の中で、「日本人は複雑な表象を好まないで、単純素朴な表象を愛好する傾向がある。芸術の方面においても、このような傾向が顕著にあらわれている。俳句や建築や絵画においてである。この単純性は禅の影響を受けて、単純性のうちに無限の可能なる複雑性を生かそうとするものとなっている。だから、芸術、建築、詩の中の空白の部分が、じつは重要な意義になっているのである。」と書いている。

 岡本の最近作は、空白の美と線の確かさであると言える。彼は、真の職人であり、最後の浮世絵版画家である。彼は完全なテクニックで、新しい浮世絵を試みている。それは「アジアの子供たち」や「初恋の若い娘たち」の作品で見ることができる。

 色彩を習熟し、線の確かさと女性像の魅力、とりわけ構図に生命を与える象徴性を含んでいるために、彼の作品は魅力に富んでいると思われる。

彼は、「女性とピエロ」、「子供たち」「若い娘たち」のテーマで、約300以上の木版画を制作している。1975年から、数多くの個展を開催し、日本版画協会の活動に参加している。彼の版画集、「花女童」は注目される成功を収めた。


高田 翠

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